MOVE座談会
                           (MOVE通信8・9号より)

 
 現在、MOVE塾は関東地域を中心に、開設準備中も含め11ケ所あり、各地で親御さん達が活動しています。今回「MOVE塾」をテーマに取り上げるにあたり座談会を企画したところ、会場地の東京を中心に8ケ所のMOVE塾の代表の方々が参加して下さいました。
 それぞれの進行状況の報告に始まり、MOVE塾に参加してよかった点、進めるうえで問題となっている点やその解決策等について活発な討議が行われました。各MOVE塾の代表の方々が一同に会する初めての企画ということもあり、とても内容の濃い有意義な座談会となり、予定していた2時間があっという間に過ぎてしまいました。全国のMOVE会員の方にとっても役に立つような貴重なご意見がたくさん出されましたので、今号と次号で前後編に分けて掲載したいと思います。
 
生活の視点から訓練を考えてみる
 
−MOVE塾に参加して、またはMOVEプログラムを始めて良かった点はどんなことでしょうか。
 
「親の意識が大きく変わりました。私の子供は筋力が弱く首が座っておらず、訓練といえば畳の端から端までひたすら寝返りの練習、または仰向けで手拍子といったものでした。一体何のためにそのような訓練をやっているのか、自分の子供にどんなふうに役に立っているのかわからないまま、指導を受けてきました。
 MOVEに出会って、座位のきっかけを与えてあげたいという目標を持ちました。座位をとらせるという発想自体考えられないことだったと思いますが、わずか半年で訓練の先生もびっくりするほど身体全体がしっかりしてきました。それ以上に子供の感情表現が豊かになり、自分の子供に対していろいろな発見がありました。訓練の先生に目標をもって話すことができるようになったし、何よりも生活が楽しくなりました。あのままMOVEを知らずに寝返りの訓練だけをしていたらと思うと恐い気がします。」
 
−MOVEはまさしく「生活」であって訓練ではない、そういう視点で見れば、やるべきことの道筋が見えてくるのだと思います。
 
「私も、子供が歩きたがっているのに寝返りばかりを繰り返す訓練に疑問を抱いていた時に、国際福祉機器展でゲートトレーナーを見て、MOVEの事を知りこれだと思いました。
 私たちの生活において、装具や車椅子といった機器は切り離すことのできないものです。でもこれまでは与えられた物を使ってきました、というより使うしかありませんでした。私の子供の場合、真鍮の入ったひざの高さまである皮製の装具を何年も作ってきました。訓練のためのものです。日常生活でそれを履いて車椅子に乗ったとしても、足が突っ張って身体が余計に緊張して、抱くこともできなくなるほどでした。でも訓練の先生には、それは子供の障害のせいでどうしようもないことだと言われるだけです。
 何か違うと思っていたそんな時に、ある靴屋さんを紹介してもらいました。歩けないけれど立たせたい、日常生活の中で使いたいということで、足首までの高さで真鍮入りの靴を作ってもらいました。そしてそれを履いた途端に子供が立とうとしたのです。それを見て、なぜ今まで長い間このような靴を履かせてあげられなかったのだろう、この靴屋さんのように選択肢はあったのになぜそのような情報がなかったのだろう、という思いがあふれてきました。
 この靴に出会えたのも、MOVEのような考えによる裏づけがあったために、納得するものに出会うまで親が妥協してはいけないと確信していたからだと思います。」
 
−子供の生活に最も身近で関わる家族の意識の変化が、専門家に働きかけるときに非常に強い力になりますね。
 
「私は保母として、子供に役立つと思ったことは積極的に何でも取り入れる姿勢でやってきました。でも、私ばかりが中心になって頑張りすぎるのはあまりよくないことだと、MOVEを通して改めて実感しています。私が責任を持って関われるのは子供が学校に入るまでの6年間だけです。それが次に受け持つ人にスムーズに流れなければならないし、親御さんにも継続してもらわなければ意味がありませんからね。 
 やはり、ひとりの子供に関わって行く上で一番大事な親御さんが物を申すことができなければ、決して情況はよくはならないと思います。でも、訓練の先生や学校の先生などに対して、親御さん達はかなり遠慮しておられるのが現状のようです。」
 
根強い意識「親は教わる立場」
 
−MOVEを進めるうえで、理学療法士や作業療法士といった医療分野の専門家の方達の協力がうまく得られないという声をよく耳にします。
 
「MOVEの話をすると、専門知識のある人ほど身を引いてしまう傾向があるようです。トップダウンという考え方も親の無理じいではないかと捉えられます。歩かせたい、椅子に座らせたいからと強制的にさせることにより子供がストレスを感じるのではないかと。また、親達による勉強会だけでやっていて大丈夫なのか、十分な専門知識のある人がチェックしなくてあとで変形など支障が出てくるのではないかと言われます。私たちはそうならないためにも専門家の意見を聞くのですが、なかなか理解してもらえません。
 MOVEの考え方のように、親もチームの一員として対等に話をしたいのですが、それができない雰囲気があります。私の子供はてんかんを持つ重度の重複障害児なので、なかなか目に見える変化が現われず、どうしたらMOVEの必要性を理解してもらえるか、現在悩んでいます。」
 
−MOVEでは、障害が重いからこそ周りがカバーして、いろいろな選択肢を与えてあげようと考えます。発達の捉え方に関わると思いますが、この段階だからこのレベルの働きかけでよしとしてしまうと、トップダウンという考え方は理解しにくいでしょうね

「私も個人的に、通園クラスの保母さんや訓練の先生方にMOVEについて話したり通信を渡したりしていますが、やはり親が入るとうまく伝わらないという感じがしています。また、勤務時間中に聞いてもらうことはなかなか難しいです。
 でも保母さんに、立つ時にまず声かけをしてもらうようにお願いしたら、2、3ヶ月経つうちに声をかけると足が動くようになりました。その現実をみて保母さんの気持ちも変わってきた気がします。訓練の先生に関しては、なるべく若い方に協力をお願いする形で相談しています(笑)。どうしても訓練の先生は教える側、親は教わる側という上下関係が多少なりともあるので、対立するのではなく一緒にやって行きましょうという雰囲気を作っています。
 これが個人レベルではなく、先生方と親で一体になって協力していこうという話し合いの場が持てるようになればいいと思います。」
 
「MOVEをやっているからと話を持っていくのではなく、ポイントだけを押さえて知りたいことを先生から引き出すようにしています。一度訓練中に専門用語を使ったら怒られたことがありました(笑)。先生は教える側、親は教わる側という関係を崩してはいけない雰囲気はありますね。ただ、理解してもらうための働きかけはやっていくべきだと思います。」
 
「私も、補助の使用等に関して自分がMOVEに沿ってやっている方法が正しいかどうかをひとつずつ確認するために専門家の意見を聞いています。今は脇を補助しているけれど、腕での補助はまだ難しいですよねとか、立たせ方はこうでいいですよねというふうに質問しています。」
 
「私たちのグループも、通園クラスで個々に相談している状況ですが、MOVEをきっかけにPTの先生との連絡ノートができて月に1回交換しています。日頃の訓練は1回10?15分と短くて十分に話ができないので、ノートを活用しています。それまで保母さんとの連絡ノートはありましたが、PTの先生とは園でも初めてのケースで、親の方から働きかけた結果として画期的な最初の例だそうです。」
 
−先生方の専門性をうまく引き出していらっしゃいますね。MOVEを前面に出さないというのも一つの方法だと思います。つき合っている先生のタイプを見極めて、親御さんの方からこの部分はこの先生に相談しようというように、専門家の力を生かしていくのが現時点では一番スムーズでいいかもしれませんね。本当は専門家の方からやって下さると親御さんとしては心強いでしょうが。
 
*前編はここまで。後編では、教育現場での問題点や機器に関する話に入ります。お楽しみに。


 MOVE座談会(後編)
 
 前編では、MOVEに出会ったことにより親御さん達の意識が変わったという声や、進めるうえで専門家の方達の協力を得るのが難しいという意見を紹介しました。MOVEを実践するにあたって親御さん達だけで集ったものの、なかなか先に進まないという悩みが多く聞かれます。具体的には、補助はこれでいいだろうか、子どもによって症状がかなり違うのでどう対処すればいいのか等の問題です。それらの問題を解決するには、その子どもに関わっている専門家の協力が必要なのに、それが得られないばかりに行き詰まっている場合が多々あるようです。前編の医療分野の専門家とのおつき合いの仕方についての討議に引き続き、後編では教育分野について親御さん達が抱えている問題点、また機器についてのお話にもふれたいと思います。
 
生活に結びつかない特殊教育
 
−子ども達に関わるもう一つの専門分野である、養護学校の先生といった教育関係者の方々に、どうすれば協力してもらえるだろうという相談をよく受けます。
 
「私は、学校に対してMOVEをやっているという言い方はしていません。そもそもMOVEとはやっているやっていないというものではないと思いますので。座位はこうして下さい、こういう時には立位をこうして下さいとか、運動会の徒競走ではゲートトレーナーを使って下さいなどと言っています。それぞれが学校でどのように先生と関わりをもっていくかが課題です。」
 
「今年養護学校に入学しましたが、あまりにも保守的な授業内容にがくぜんとし、就学前にMOVEを知って本当によかったなと思いました。先生にいろいろなことを働きかけているのに、それはお母さんの思いでしょう、願いでしょうと処理されるのが一番困りました。でもそれに対して理論的に説明できたのはMOVEを知っていたからこそだと思います。
 ある日、昼食の前に子どもの手を洗ってくれていないことに気がつきました。就学前に通っていた療育センターや保育園では、大変だけれど後ろから抱えて、必ず食事の前には手を洗ってくれていたしそれが当たり前でした。なぜ養護学校でそのような配慮がなされないのだろう、と考えました。たとえ手の課題をやらなくても、手を洗う、タオルで手を拭くといったひとつひとつの作業が生活力に結びついて行くのに、そういう視点で子どもを見てくれていないなと感じました。
 これができると思うのと、できるわけがないと思うのでは出発点は全然違うと思います。今はこれができないけれどできるようになろうねというMOVEのような目標をもった考え方で子どもに関わってくれれば、伸び方も全然変わってくると思います。健常者の中にいるよりも、専門家の中にいる方が子どもはより単純により幼く扱われるという壁に今ぶつかっています。」
 
?統合教育でいろいろな子ども達と関わったことのある子は、他の子ども達が何かをした時に共感したりして、人間関係の持ち方を学んできたようにみえるという話を聞いたことがあります。半面、養護学校で先生方に手厚く面倒見てもらう子どもにはそのような社会性が育ちにくいようです。
 
「私が3月まで勤務していた養護学校の入院部で気がついたことですが、長期在籍の生徒の中には、排泄に関して自分で何でもできるのにやってもらって当り前が身についていて、介助員が来るまで何もしないで待っていた生徒がいました。依存したまま成長して行く子ども達を見て、就学前や低学年といった早い時期に、家庭と学校で連携をとりながら考えて行くべき問題だと思います。」
 
「普通の子どもの場合は、勉強できないのは親のせい学校のせいという話になりますが、障害児が発達しないのは障害のせいで当たり前で片付いてしまい、先生に責任は生じません。これでは先生の力量や家庭での欠点が見えてこないことになり、それが子ども達がおいていかれる大きな要因だと思います。」
「私は子どもの就学にあたって心障学級を選びました。心障学級は知的障害児が主なので、先生方は肢体不自由児については専門ではないのですが、よく話を聞いてくれました。かえって専門家ではないほうが親の意見を聞いてくれる気がします。
 また、かかっている整形外科医の先生に心障学級に入れたいと相談した時、親が一番の専門家だからお母さんが頑張れと言われて、基本的には理解してくれることがわかってとても励みになりました。今後自分も勉強して、子どもにとって一番の相談役でありたいし、生活を支えるサポーターでありたいと思っています。」
 
機器をめぐる試行錯誤
 
?MOVEを進めるうえで、欲しい機器を購入できないことがもうひとつの大きな問題となっています。助成を受けるためにはお医者さんの意見書が必要ですが、書いてもらえなかったり、他の機器を薦められるケースがあります。
 
「私はダイナミック・スタンダーがほしかったのですが、訓練に通っているところではない療育園で相談しました。私の説明が悪かったのか、重度の障害を持ち、てんかんもあり医療的にも問題がある子どもなので、やはり反対されました。でも制度の範囲内で作れるものとして、木製の骨盤スタビライザーを作ってくれることになりました。
 訓練の先生にも理解してもらいたいから、そのスタビライザーを使っているところを写真に撮って持って行ったら、やはりこんなものは必要ないと言われました。でも少し興味があったらしく、実際に見せてほしいと言われました。持って行くと、立たせた状態にすると呼吸の調子もよくなることが確認できたし、先生が調整もしてくれました。
 とにかく寝たきりの子どもは赤ちゃん扱いなので、親が先生方に言っていかないと何も変わらないと思いました。受け身ではなく、先生の前で、例えばこの子は視線でおもちゃを選ぶことができることを見せたり、子どもと自分の関係を見せて、先生も入ってきたいと思わせるような雰囲気をつくるべきだと思います。今回は欲しい機器が手に入らず残念でしたが、何が何でもこれが欲しいと言い張るのではなく、先生の意見も取り入れながら、徐々に本当に欲しい機器にたどりつけばいいという考えを持つようになりました。とにかく、立たせることができたのは初めの一歩でした。今後は、子どもは立たせるとこんなに楽しい表情をするんだというのを理解してもらい、次は移動もさせたいという観点でダイナミック・スタンダーを目指したいと思います。」
 
「機器の貸し出しなどをしてもらって、実際に先生方に使って吟味してもらうことはとても大事だと思います。先生方も、放課後色々と試して勉強して下さっているようですし。」
 
「私の場合は、意見書を書いてもらえず、結局自費で購入しました。今デパートに行けば何でも買える時代に、子ども達が本当に欲しいもの、必要なものが簡単に買える状況になってほしいと思います。」
 
?福祉行政制度も変わっていくべきだと思います。事務局としても精一杯サポートしていくつもりです。理解してくれるお医者さんも実際にいらっしゃるし、いろいろな情報がありますので、あきらめないでいただきたいです。また、理解してくれるお医者さんを見つけたら情報を交換し、逆にその先生を皆でサポートするようにしていったらどうでしょうか。ぜひ事務局に情報をお寄せ下さい。(終わり)
 
*他にも、医療的問題が大きい子どもに何をしてあげればいいか、という問題点などが提示されました。限られた紙面では全てご紹介できなかったことをお詫びいたします。
 さて、今回の座談会では、かなり家族の本音が聞かれたように思います。MOVE通信は意見交流の場でもありますので「そんなこと言われても困る・・」 etc. どんなことでも結構です。専門家の方からのご意見も、ぜひお寄せ下さい。
 
参加者してくださったMOVE塾
 
・横須賀MOVE塾(神奈川・横須賀市)
・つぼみの会(東京・板橋区)
・ドルフィン(東京)
・なかよしサークル(東京)
・わたぼうしの会(東京・杉並区)
・H.A.L.(東京)
・なすの園(栃木・黒磯市)
・千葉・市原市/開設準備中
 
スタッフ
事務局長 白崎淳子(進行)
MOVE通信編集委員 フラハティ真紀子(記録)
MOVE通信編集委員 林清子


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