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MOVE通信5
はじめに
「機器が無ければMOVEプログラムはできないのでしょうか。」という質問をよく受けます。またMOVEプログラムとリフトン社の機器を混同してしまっている親御さんや専門家の方もおられます。MOVEで使用される機器は形、機能性ともにかなりユニークなので、機器のインパクトが強く、ともすれば機器が一人歩きをして誤解を受けることもあります。そこで文頭の質問にお答えするためにも、また機器について正しくご理解いただくためにも、MOVEプログラムのために機器が開発されたいきさつからお話しした方が良いでしょう。
どうしてMOVE機器が生まれたか
MOVEの目的は、障害を治療するのではなく、今現在子供が持っている力を引き出しかつ援助してより自立的な活動ができるようにすることです。また、当事者の希望をプログラムのゴール設定に最大限に取り入れることで、当人がより積極的になり、本来持っている力が引き出され易くなります。それは周りが人為的に子供を成長させるのではなく、子供の中に埋もれていたものが、動機と、生かせる環境を得て花開いたにすぎません。
子供の障害が軽度であれば、援助はさほど困難では無いかもしれません。しかし、もしその子供が重度の障害を持ち、それでも他の子供のように外で鬼ごっこがしたいと願ったらどうすればよいのでしょうか。まさにこの問題にプログラム創始者のリンダ・ビダベ氏はぶつかりました。当時まだ機器はなく、ビダベ氏は自分で不十分ながらもあり合わせのものでトミーという一人の少年のために歩行器をつくりました。それに乗って初めて自分の力で動いた瞬間の彼の喜びは、後にビダベ氏がMOVEプログラムを開発する原動力となり、そのときの機器は現在のゲートトレーナーの原型となりました。
リフトン社のこと
その後ビダベ氏は、「自分で体重は支えられないけれど立って友達と遊びたい」「まだ坐位はとれないけれど家族や友達とテーブルを囲んで食事がしたい」といった子供たちの具体的な希望を叶えるために、立位、歩行、坐位用の機器のアイデアを次々に生み出し、それらの機器を製作してくれる企業を探しました。しかし、殆どの企業は応えてくれませんでした。障害児の市場は限られているため、そんな特殊な機器は商売にならないというのが理由でした。しかし、その時人づてに知ったのが、ニューヨークに本社を置くリフトン社でした。
リフトン社はキリスト教の一宗派であるフッタライト派の教会によって運営されている会社で、もともと幼稚園用の木製家具、遊具を主に生産していましたが、優れた職人が多いため、地元の障害児施設の要望を受け、福祉機器を造っていました。全ての子供に活動を保障しようというMOVEの考えに共鳴したリフトン社は、ビダベ氏のアイデアを製品として具体的な形にしてくれました。これによって重度の障害を持つ子供でも自分で動く喜びを知り、新しい世界が開けるようにというMOVEの考え方が実現したのです。
全ての子供に活動を保障するために
障害児が日常生活で望む活動をかなえる方法は2つあります。一つは必要なだけの補助を人的に行うこと。もう一つは必要な補助のついた機器を使うことです。人的な補助は有効です、ただしいつも子供が希望するときに必要なだけの介助が受けられればのはなしです。現実はそういかないことが多いのです。特に子供が小さくて体重も軽く、親が一人で支えられるうちは良いのですが、成長するに従い一人ではとても支えきれなくなります。だからといって介助者を簡単に増やせるわけではありません。障害が重ければ重いほど介助者の負担が増え、動かしてあげたくても思うようにできず、本人は横になったままあるいは、安楽姿勢で座ったままで一日を過ごすという状況になりがちです。
以上のような現実を考えたとき、MOVEの機器は、障害が重い子供であればあるほどその有効性を増します。日本ではまだ、「重度の障害児は動けなくても仕方がない」という考えが根強く、機器に対する理解が欧米に比べて足りないように思われます。MOVEでは自分で動けない子供ほど、活動を広げるために周りが援助をしなければならないと考えます。自分で動けないからこそ、日常生活において活動や経験の機会がより多く保障されるべきなのです。
誰にでも生活を楽しむ権利がある
このような考えをもとに、医療チームの意見を採り入れながら開発されたのがMOVEの機器です。プログラムの中で、参加者はゴールを設定し、必要に応じて機器の種類と使用が決められます。つまり、機器が必要かどうかは、あくまでも各自のゴールの内容によるのです。
意志表示がまだできない子供の場合には、しばしばできる限り同年齢の子供たちと同じ体験をさせてあげるということをゴールにします。なぜなら私たちは自分で経験したことをもとに選択をして生きています。子供たちも同じです。何がしたいのか、何が楽しいのかは経験の積み重ねの中から選択されます。その選択肢を一つでも増やしてあげることは周りにいる人の役目だと考えます。
重要なのは、子供が今現在をいかに充実して生きているかということであり、全ての育ちはそこからしか生まれてこないのです。というわけで、まちがってもMOVEの機器を使って無理矢理何キロも歩かせたりしませんように。MOVEの機器は子供の生活をより楽しくするために生まれたのですから。
(文責 白崎淳子事務局長)
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