MOVE カリキュラム


プログラムの概要

 MOVEはトップダウン方式を採用、日常生活の活動に基づいたカリキュラムで、大人が家庭や地域社会の中で必要とする基本的、実用的運動技能を指導するものです。座る、立つ、歩くといった運動技能を身につけていくための指導課程が、身体の自然な動きと組み合わせて提示されています。また、活動選択の段階において両親が主導権をもつように作られているのが特徴です。カリキュラムはセラピスト、教師などの専門職やそれ以外の人々が個々に提供するサービスを統括的に管理しやすい形式になっています。

プログラムの対象

 MOVEプログラムは当初、一人で座る、足に体重をかける、交互に足を動かすといった動作に必要な運動技能を身につけていない8才以上の生徒を対象に、彼らのニーズに応える形で作られました。しかしながら、世界的に多大な効果をおさめたため、今では幼児の発育プログラムや整形外科的障害のみをもった生徒や大人にまで対象の範囲が広がっています。

プログラム開発の初期段階

 米国の公的特殊教育は3才で始まり22才で修了します。ところが自立歩行のできない生徒達は、3才の時には身につけていた運動技能を、22才では失った状態で卒業していくのが現実であり、これがMOVEプログラムの必要性が明確に認識される背景となりました。最重度の障害をもつ生徒100人(3才から22才)を対象に調査を実施、その結果以下のような状況が浮び上がり、MOVEプログラムの誕生に至りました。調査の対象となった生徒達の大部分は、機能発達の面で身体的にも知的にも6ヶ月のレベルに達していないと判断された生徒達でした(Briganceの幼児期発達診断表とGessellの発達評価法による)。

(コミュニケーション)

 ほとんどの生徒は、微笑んだり泣いたりする以外に自分の意志を言葉で表現する力がなく、拡大代替言語と呼ばれる方法も取り入れた言語療法の効果は、皆無またはそれに近い状態でした。また、周りの言葉を理解する力の方が、自分の意志を言葉で表現する力よりはるかに優れた生徒が大部分でした。つまり自分の名前を呼ばれたり、「ママ」「バス」「食べる」「飲む」といった言葉を聞くと、その人の方を見て反応することはできるのです。

 そこで、言葉に替わるコミュニケーションの手段として最適な方法を調べるために、身体的な側面から評価を行ったうえで、生徒たちをブレア・ラーニング・センター(カリフォルニア州ベイカーズフィールド市)で開発されたプログラムに参加させました。これは記号を使って意志を表現することを指導するプログラムです。例えば、始めに自分の好きな飲み物が入っている紙コップを、さわるか見ることによって飲みたいという意志を表現するように生徒に教えます。これを十分に習得したところで、飲み物が入ったコップの代わりに空の紙コップを使うようにします。その空のコップも少しずつ切り取られ、最後にはコップの絵が描かれた丸い底だけが残ります。この段階までくると、生徒は飲みたいという意志を記号を使って表現していることになります。

 食べ物に関しても好きな食べ物をのせたスプーンから始め、最後にはスプーンの絵というように同じように取り組みました。このように様々な食べ物や飲み物を生徒に差し出したところ、驚くべき結果が出たのです。ハイハイや寝返り、身体をくねらすなどどのような形にしろ、自分で移動することができる生徒はいい成績を上げ、意味のある選択つまり自分の意志を表現することができました。しかし一方で、何の運動技能も身につけていない生徒は自分の意志による選択ができなかったのです。その時点では、生徒たちが違いを認識できなかったのか、あるいは選択があること自体を理解できなかったのかはわかりませんでした。

(食べる技能)

 運動発達に遅れのある生徒はほとんどが食事の時に一対一の介助が必要で、さらに大半の生徒が上気道に慢性的な問題を抱えており、それが食事をさらに困難にしていました。運動発達遅滞の生徒が10人いるクラスでは、昼食時に最低延べ5時間の大人による介助が必要でした(一人に30分)。首がすわっていない、舌が突き出てしまう、口の動きがまとまらず食べ物をうまく飲み込めないといったことが最大の問題でした。

(排泄の技能)

 7才以下の生徒は決まった時間にトイレに座らせていましたが、生徒たちの年齢が高くなり体重が増え、または変形が進んで座ることが困難になるにつれ、排泄指導の回数は減り全く指導しなくなることもありました。おむつの交換は可能な限り交換台の上で行いましたが、生徒の身体が大きくなり、抱き上げて交換台に乗せるのに危険を伴うようになると、床やビーズクッションの上で換えるようになりました。

 身体が大きく骨に変形のある生徒の場合、1回のおむつ交換に平均延べ20分の大人の介助が必要でした(大人2人で10分)。つまり、運動発達遅滞のある身体の大きい生徒が10人いるクラスでは、1日最低2回のおむつ交換に合計3時間20分の介助が必要であるという計算になります。

(運動技能)

 カーン郡カリフォルニア・チルドレン・サービス(KCCCS)は、医学的に適応する診断名をもち、かつ目に見える発達が予想されると医師によって判断された生徒を対象にセラピーを提供していました。セラピーはほとんどが「相談」形式でした。つまりセラピストが、生徒のニーズについてクラスの担任と話し合ったうえで、生徒に望ましい姿勢や活動内容を担任に指導するといった形です。そして指導された内容を、教室での活動にどのように組み入れるかと知恵をしぼるのは担任教師の役目でした。

 E.E. Bleck、R.K. Bealsをはじめとする多くの文献には、乳幼児の発達理論に基づいた従来のプログラムでは、7才までに運動技能を身につけることができなかった子供の場合、それ以降もその可能性は極めて少ないと書かれています。ブレア・ラーニング・センターの生徒たちの状況はまさにそれを十分に裏付けていました。

(家庭生活)

 生徒の身体がまだ小さくて、抱き上げて移動させるのが楽なうちは家族と一緒に外出する機会が多くありますが、身体が大きくなり、抱き上げたり移動させるのが大変になるにつれ家にいることが多くなるのが現実でした。10代の歩けない生徒となると、出かけることといえば通学(リフト付きのバスで)か通院くらいになってしまいます。家族が出かける時には誰か一人がその生徒と家に残ったり、介助者が雇われる場合もありました。短時間の場合は一人で家に残されることもありました。

 日常生活の中で最も重労働とされていたのが入浴です。多くの場合、入浴やシャワーは週に1回で、他の日はベッドの上で身体を拭いてもらう程度でした。食事はたいてい家族とは別の時間帯に、居間や寝室でリクライニングまたはそれに近い姿勢で食べるのが大半でした。おむつ交換は、移動がとても大変なため、たいてい食事と同じ場所で行われます。夜はほとんどの場合、母親が障害を持つ子供と一緒に寝ていました。定期的に寝返りをさせるなどの介助が必要だからです。家庭や地域社会で様々な環境に接する機会は、障害の重さと身体の大きさに反比例して減っていきました。

(学校生活)

 重度障害児の学級は、平均10人の生徒に担任教師一人、指導助手が一人というのが一般的な規模でした。担任と助手を合わせた指導時間は延べ10時間、均等に振り分けて生徒一人当り60分の指導が受けられることになります。発達段階が1才未満とされ、かつ歩けない生徒の場合は、あらゆる活動に参加するのに1対1の介助が必要でした。昼食は生徒1人に最低30分、おむつ交換または排泄1回に平均10分を要します。つまり昼食と2回のおむつ交換といった身辺介助だけで1日の指導時間60分のうち50分が費やされていたのです。身体が大きくて一人では抱き上げられない生徒になると、指導時間がますます削られていきます。さらに身体的障害が重い生徒ほど、装具の着脱、体位排痰、定期的な吸引など特別な措置を施さなければなりません。純粋な指導に残される時間は、生徒の障害の重さと身体の大きさに反比例して減っていきました。

プログラムの目的

 MOVEプログラムの目的は以下のとおりです。
  • 運動技能を体系的に学ぶ手段として、教育の場を利用します。
  • プログラムの有効性を高めるために理学療法等を定期的に利用します。実際には、セラピストが必要に応じて医療的助言を提供して個々のプログラムの作成を助けたり、プログラムを実践するスタッフへの指導を行います。また、生徒やスタッフと共にプログラムの進行状況を定期的に検証します。
  • 他の教育活動や余暇活動に参加しながら自然に運動技能の練習ができるプログラムを提供します。
  • 日常生活の介助に要する時間と労力を軽減させます。
  • わずかな上達でも評価できる方法を提供しており、運動技能の向上を示すことができます。
  • 学習する一連の運動技能は以下のとおりです。
    • 参加者の年齢にふさわしい技能であり、従来の発達理論に基づいたプログラムではなく必要性を重視したトップダウン方式を採用して選択された技能。
    • 参加者にとって、現在かつ成人後において重要で役に立つ技能
    • 地域社会や家庭において行動範囲が広がっていくような技能
    • 自分で動く能力が全くないレベルから、一人でできるレベルにいたる一連の技能。
  • 言語表現、身辺自立、就労など、他の技能を習得するために必要な基本的運動技能を提供します。
 MOVEプログラムは、生徒が大人になった時点で生活の中で実際に生じるニーズを考えるにあたり、教育者とセラピストの専門知識を組み合わせることを基本としています。このチームアプローチの結果生み出されたのが以下のニーズに応える機器でした。機器の開発、製造はリフトン社(ニューヨーク州)との提携により実現しました。
  • 移動、食事、排泄、卓上作業、余暇活動といった機能的活動をこなすための姿勢を生徒にとらせます。
  • スタッフ自身が身体に無理を感じることなく、生徒に正しい運動パターンを指導することができます。
  • 生徒が運動技能を習得するに従って、補助を減らすことができます。
  • 生徒が一人で運動技能を練習することができます。
  • 生徒の骨や関節の状態を改善し、伸筋系の筋肉を強化します。

プログラム参加にあたって

  プログラムに参加できない人はごく限られていて、座る、立つ、歩くといったことが、医療上のニーズと相反する(奨励されない)場合のみです。以下の項目に該当する場合は、医師や理学療法士に相談する必要があります。
  • 頭部が首で支えられないほど大きい。
  • 循環器系疾患のため垂直姿勢をとることができない。
  • 呼吸障害がある。
  • 骨がもろい。
  • 筋拘縮がある。
  • 脊椎に側弯やねじれがある。
  • 股関節が脱臼している。
  • 脚または足首に異常がある。
  • 身体のどこかに痛みまたは不快感がある。
 麻痺または退行性神経・筋疾患のある人は、医療的に可能な限り、骨や関節の状態を改善するためにプログラムに参加することができます。

トップダウン方式

 MOVEプログラムは、両親達へのインタビューを通して子供達のニーズを把握すること、そして大人として家庭や地域社会で生活するために最低限必要な基本的な活動は何かを分析することによってその基礎が築かれました。分析の結果、基本的な活動は以下のようなものであることがわかりました。

   家庭で
   ―家族や友人との食事
   ―入浴またはシャワー
   ―ベッドの乗り降り
   ―着替え、身支度
   ―排泄
   ―意志の伝達
   ―余暇活動

   地域社会で
   ―買い物
   ―診察や歯科治療、美容院や床屋への外出
   ―レストランでの外食
   ―屋内外での社会的活動(教会、ピクニック、映画など)
   ―公衆トイレの利用
   ―公共交通機関または自動車での移動

課題分析

 次に、両親たちが答えた活動を一つ一つ分析し、実際にそれらの活動を行うにはどのような運動技能が必要となるかを調べたところ、次の16項目に集約されることがわかりました。

    1. 座位を保つ
    2. 座位のまま動く
    3. 立位を保つ
    4. 座位から立ち上がる
    5. 立位から座る
    6. 立ったまま向きを変える
    7. 前方に歩く
    8. 立位から歩き始める
    9. 歩くのをやめて立ち止まる
   10. 後ろに下がる
   11. 歩きながら方向転換する
   12. 階段を上がる
   13. 階段を下りる
   14. 凹凸のある道を歩く
   15. 坂を上がる
   16. 坂を下りる

技能のレベル分け
 
 そしてこれら16項目の技能を一つ一つ4つのレベルに分けました。レベルは生徒の成人後のニーズに基づいて分けられ、それぞれに機能的な意味づけがあります。生徒がプログラムに参加する際、初めにどのレベルで機能しているかを把握するためにトップダウン・テストが実施されます。テストは各項目とも最も高い技能(修了レベル)から始め、その下の技能へと読み進めていきます。生徒が既に習得している技能まできたらそれが開始レベルとなり、生徒はその一つ上の技能に取り組むことになります。開始レベルより下の技能を無視することによって、習得速度の遅い生徒が、幼児期にしか使わない技能の練習に貴重な時間を割くのを防ぐことができます。4つのレベルとは以下のとおりです。

修了レベル―このレベルの技能を習得すると、生徒は家庭では自立、つまり自分で行動して家庭生活を営むことができるようになります。また地域社会では最低限の介助で活動できるようになります。このレベルを達成することはプログラムを修了することを意味し、従来のプログラムを使って運動技能をさらに向上させることができます。車椅子を必要とすることはもうありません。

レベル1―このレベルの技能を習得すると、介助者が参加者を抱え上げる必要がなくなります。参加者は両手を持ってもらったり、またはウォーカーを使って最低100メートル歩けることになります。従って、車椅子は長距離の移動の場合のみ必要となります。

レベル2―このレベルの技能を習得すると、バランスの保持と体重の移動を介助してもらえば、最低3メートル歩けるようになります。抱え上げる時も参加者自身の協力が得られるので最低限の介助ですみます。車椅子は3メートル以上の距離の移動に必要となります。

レベル3―このレベルの技能を習得すると、骨の状態や内臓の機能が改善されます。関節が変形して痛みに苦しむ可能性も小さくなります。ブレア・ラーニング・センターでは、このレベルにある生徒が技能を習得するために、補助として使用する基本的な機器を3種類開発しました。一つは前傾姿勢の椅子、これにより生徒が卓上作業をする際、前傾姿勢で座ることができます。もう一つはモービル・スタンダー(現在のダイナミック・スタンダー)、これは車椅子に似ていますが、座位ではなく立位をとらせるのが特徴です。そして前傾姿勢のウォーカー(現在のゲートトレーナー)、これにより指導者が生徒を支えることなく足を交互に運ぶ練習をさせることができます。これらの機器は現在リフトン社によって製造され、世界中で入手可能となっています。

補助減少システム


 生徒が技能を向上させるには、トップダウン・テストの中で現在習得している、つまり開始レベルの技能より一つ上の技能を選ぶこと、そしてその技能を習得するためにどのくらいの補助が必要かを見極めることが必要です。補助には、座位保持のための補助と立位・歩行のための補助の2種類があり、MOVEカリキュラムに詳細が記述されています。補助は数値で表す仕組みになっており、全く補助を使っていない場合は0点、最も多くの補助を受けている場合は5点となります。簡単な図表を使うことによって、指導者はどの部分に最も補助が必要かが一目で分かり、体系的に補助を減らしていくことが可能となります。

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